プレゼント


 春の装いに変わりつつある街並み。
彼・鳴海孝之は一人商店街を歩きながら、ショーウィンドウを眺め行く。
今日は愛する彼女の誕生日。彼女のためのプレゼントを探し歩いている。
春の花に彩られた花屋、桜餅におはぎが並ぶ和菓子屋。
いろいろな店先で、彼女に贈るにふさわしい物が並んでいた。
何にしようかと迷い彷徨っていると、ふとある店に飾られた紺色のそれに目が留まる。

「遙なら似合うだろうな……」

 つぶやくと、彼はそれに見入った。そのシンプルな作りと軽やかな装いが、
彼には彼女の微笑む姿と重なって映る。彼は思わず笑みをこぼす。
眩暈を起こすくらいの動悸を感じ、孝之は呼吸を整えた。
そして彼は、意を決して店内に入った。

「あの、あれが欲しいんですが……」

 孝之が告げると、店員はラケットを手にしたままちらりと横目で見て
「サイズは?」とだけ聞き返してきた。
平静を装う店員だが、僅かに疑念を持った視線で孝之を盗み見ていた。

「えっと……このくらいの身長で……」

 孝之の言葉に店員は適度に合の手を入れ、そして棚から商品を取り出した。

「多分これで大丈夫だろう。まぁ多少収縮性もあるからな」

 そういいつつ店員は手早く紙袋に詰め込むと、金額を告げた。
孝之は財布から紙幣を幾枚か取り出し、会計を済ませ店を後にする。

 後残った店員は、ウィンドウ端に飾ってあるそれを眺めて呟いた。

「まったく、どうしてあんなのがいいのかね?」

 溜息にも似た息を漏らして、首を軽く横に振る。
そして中断していたガットの張替えを再開するのだった。

 そんな店員の言葉を知る由もない孝之は、紙袋を小脇に抱え軽い足取りで
欅総合病院へと向かっていた。「遙ならきっと似合う」そう呟きながら。



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 孝之が病院に着く頃には、すでに空は暗くなり面会時間も終了していた。
プレゼントを買うために予想以上に時間を取られていたらしい。
彼には何度も通った病院であった。施錠された正面玄関を避け、
裏の非常階段に回り込むとそのまま数階足音を潜めてあがっていく。
非常口のドアは外からでも開くように施錠されていないことを彼は知っていたからだ。
目的のフロアまで上がると、そっと扉を開け中の様子をうかがった。

 さすがに面会時間を過ぎてからの訪問がまずいことは、彼にも承知の上だった。
扉の隙間から体を滑り込ませると、彼は音を立てないように扉を閉める。
そして靴を脱ぐと、冷えたリノリュウムの床を音を忍ばせ歩を進めていった。

 遙の病室。その扉の前に着き、彼は細心の注意を払いながら扉を開けた。
病室には月明かりに照らされた遙が白いシーツに包まれて横たわっていた。

 孝之はベッドの横のいすに腰掛け、シーツから遙の左手を取り出すと互いの指を絡める。
そして右手でゆっくりと、遙の頭を撫で続けた。

「遙、誕生日おめでとう。初めて二人で過ごす誕生日だな」

 静かに眠りつづける遙に、孝之は優しく語り掛ける。愛しい彼女の髪を撫でながら、
彼はゆっくりと彼女に近づきそっとキスをした。

「遙にプレゼントがあるんだ。遙もきっと、気に入ってくれると思うよ」

 孝之は脇に置いた紙袋から、遙へのプレゼントとして買った服を取り出した。
そして広げて見せると、にっこりと微笑みかけた。

「ほら、可愛いだろ? これから、これに着替えて出かけよう」

 そういうと孝之は遙のパジャマに手をかけて脱がし始めた。
上着を取りズボンを下ろし、そして下着もすべて脱がせた。
月明かりに照らされた遙の姿は、まるで白磁器で出来た人形のように
透き通り輝いていた。

「じゃあ、着せるぞ」

 孝之は両足をゆっくりと通すと徐々に上へと上げていく。
彼女の露になっていた姿態は徐々にその布に覆われていった。

 ふと胸元で手が止まる。遙の胸には計器から伸びた端子が貼り付けられていた。

「このままじゃ着れないし、出かけられないな。外すぞ」

 孝之は遙の肌から端子を剥ぎ取ると、服を上まで上げ
最後に腕を通した。

「よし、出来た。思ったとおり、似合ってるよ」

 遙の姿を見て満足げに孝之は微笑みかける。

「さぁ遙、誕生日のデートに出かけよう」

 孝之は病室の扉を少し開けると、ベッドに戻り遙を抱きかかえた。
そして病室を出ようとしていた。


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    ピーッ! ピーッ! ピーッ!

「どこの病室っ?」

 深夜のナースステーションに、異常を知らせるブザーが鳴り響き緊張が走る。
当直の看護婦の一人が、壁際のモニターをすぐさま確認した。
モニターには部屋番号と患者名が赤い文字で表示されている。
そして下には「NO SIGNAL ERROR」という文字が点滅していた。

「特別病棟、涼宮 遙さんの部屋ですっ! 良かった当直医は香月先生だわ、すぐに起こしてきますっ」

 緊急時とはいえ、大きな音を立てては他の患者が不安になる。ましてや夜更け。
細心の注意を払いながら、遙の病室に駆けつけた。

 駆けつけた病室の前の状況に、彼女たちは自分たちの目を疑った。
 そして困惑のあまり、硬直していた。
 そこには遙を抱きかかえにっこりと微笑む、鳴海孝之が立っていたからだ

「皆さんどうしたんですか?」

 悪びれた風もなく、孝之は駆けつけた医師と看護婦に話し掛ける。

「どうしたって。鳴海君、貴方ねっ」
「これから遙とデートに出かけるんですよ」

 香月が孝之に詰め寄ろうとすると、孝之は胸に抱いた遙を見て満面の笑みを浮かべて切り返した。
その視線はどこか取り憑かれたような好色に満ちた色をしていた。

 香月は状況を考えた。あまり無理をすると、患者に危害が及ぶ可能性がある。
それだけは避けなければならない。病院の管理問題を指摘されるのは免れない。
しかし、目の前の光景に妙な違和感を抱かずに入られなかった。
なぜ遙がその服装に着替えさせられているのか? という事を。

 その時、孝之の後ろで動く影があった。
影はタイミングを見計らい、手を伸ばすと孝之の口元に袋をあてた。
孝之は袋の中の気体を、思い切り吸い込んだ。

「あなた何をっ」

 香月医師が叫ぶ。突如として崩れ落ちる孝之を影は支える。
そして彼の手から離れる遙を、他の看護婦がとっさに抱え上げた。

「患者さんの安全を考えて、吸入麻酔を使用しました」

 香月の叫びに、平然と答える看護婦。背後に居た彼女、名札には穂村とあった。

「香月先生、彼はおそらく例の……」

 そういって穂村が流した視線の先の遙を見て、香月も頷き納得した。

「笑気と他の混合で、濃度を調整してますので大丈夫かと」

 穂村は香月に言うと、にっこりと微笑んだ。

「相変わらずの手際ね。何で麻酔なんかを…… まぁいいわ。
とりあえず彼は貴方のほうで、例のところにお願い。
私は涼宮さんの処置をしてから向かうわ」
「はい、先生」

香月と穂村は打ち合わせをすると、各々その仕事を始めた。




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「んっ……ここは……?」

 目が覚めた孝之は、ぼんやりとした頭であたりを見回す。
何もない薄暗い部屋と静寂。見えるのはコンクリートの壁と鉄格子。
妙に重い頭に手を伸ばすと、ジャラリと鳴る金属音と共に腕に妙な重さを感じた。
目を凝らし両腕を見ると、そこには金属製の腕輪と壁に伸びる鎖が繋がっている。

「一体これは……」

 彼は記憶を辿る。遙と出かけようとして、そこで……

「遙はっ! 何で俺がこんなところに閉じ込められてるんだ!」

 監禁されている事に気づいた彼は、叫ぶ。がらんとした無機質な空間に空しく声が響く。
木霊が消え再び静寂が訪れる。耳を澄ますとかすかに、ボイラーのような機械音が聞こえる。
 考えるに、ここはおそらく病院の地下だろう。確か遙と出かけようとした時、阻止されて
誰かに袋から何かを吸わされて意識を失ったのだった。
 彼は徐々に鮮明になってくる頭と記憶で、状況を把握しようとしていた。

「一体なんでこんな事に」

 項垂れ頭を抱え座り込む彼に、スピーカー越しの声が聞こえた。

「目が覚めたようね、鳴海君」

 安物のスピーカーで音は割れていたが、その声は香月医師のものに違いなかった

「これは一体何の真似ですかっ、モトコ先生!」

 孝之の叫びに香月は冷静に、スピーカー越しで答える。

「まず一つ目に、貴方は患者に危害を加えようとした。貴方の思考がどうであれ、これは客観的事実。
通常なら警察に行って貰うところだけど、それ以上に貴方には問題があるの。いや病気といったほうが良いかしら」

 そう告げる声に、孝之はいぶかしげに目を細めた。

「病気だって? この俺のどこが病気だって言うんだ」

 孝之は姿の見えない相手に対し、声のするスピーカーを見据えた。問題などどこにもない。
そして病気などかかっていようはずもない。その意思を込めて視線を向ける。

「そう、そういうならこれを見ても何も思わない?」

 香月の声と共にモーターの唸りと重いものが軋む音が聞こえ、スピーカーの下にある壁が動き出した。
音が止まり凝視すると、壁のあった場所には巨大なガラスがはめ込まれていた。
ガラスを隔てた向こう側の部屋に、薄明かりに照らされた人影を孝之は確認した。
そして部屋はゆっくりと明るさを増し、その人影が色彩を持って彼の目に飛び込んだ。
一人はいつもの香月医師、その人であることはすぐに確認できた。
その横に助手のように立っている彼女は、確か穂村という看護婦だと孝之は記憶していた。

「さて、貴方の問題。いや、病気はこれよ」

 その言葉と共に、穂村はナース服のボタンに手をかけ外すとその内側をさらけ出した。
その姿を見て彼は一瞬凍りついた。

「スクール水着!」

 驚愕のあまりに叫ぶ。ナース服の中にスク水。いや、スクール水着がそこにある。
彼の目は一転して飢えた獣が獲物を見るような、鋭いものと変わっていた。

「やはりね。貴方のその反応、間違いなく『スクール水着症候群』だわ」

 香月はニヤリと唇を上げ笑うと、言葉を続けた。

「最近頓にスクール水着に過剰反応する男性が増えている、という調査があるのよ。
最近では、カフェのウェイトレスがスクール水着を着用しているというだけで、
二百人もの男性が列をなし警察が出動するという事件までおきているわ」

 香月は一息入れて、彼を観察する。彼の視線は、隣に居る穂村に釘付けだった。
聞こえはしないものの、呼吸すら荒げてて居るのは腕に取り付けたセンサーで瞭然である。

「過剰なまでの反応。これを趣味嗜好と言うにはあまりにも強すぎる。
その過剰な反応は多少の個体差はあれ、ほぼ同じであることもわかってきたの。
そこで私はこれを、ある種のウィルスが介在してると仮定したの」

 孝之はその話しを聞きながらも意識の大半を、目の前のナース服から覗くスク水に奪われていた。
片やナース服の中にスク水を着た穂村は、孝之の食い入るような視線に恍惚しながらその姿態を見せ付けていた。

「貴方は今彼女である愛する涼宮さんでなく、スクール水着を着ている穂村さんに欲情している。違うかしら?」

 涼宮の名を聞き一瞬正気を取り戻した孝之が、首を横に振って否定する。

「いや、欲情なんてしていないっ。俺は遙を……」
「いいえ」
 香月は孝之の言葉をさえぎると、容赦なく彼の股間を指差し否定を切り捨てた。

「その昂ぶりは何? 穂村さんに欲情している証拠でしょ。
いやスクール水着に欲情していると言った方が正しいかしら?」

 香月の言葉に、抗うようにして視線をそらす孝之。

「抵抗力が強いわね。いい検体が確保できたようね。さぁ穂村さん、貴方のスク水姿を
鳴海君にもっと見せ付けて上げなさい」

 その言葉に、穂村はナース服を脱ぎ捨てるとスクール水着姿で部屋を隔てるガラスへと歩み寄った。
そして彼女の豊満な乳房をガラスに押し付けると、甘い声で孝之に呼びかけた。

「鳴海さん、私の。私のスクール水着姿を見て」

 孝之は抗った。遙への愛が偽りのものに変わってしまう。見てはいけない、見てはいけないと。

「鳴海さん、貴方のためのスクール水着よ。さぁ見て」


 1.そのまま目を伏せる
 2.振り向く
 (体験版のため、選択肢が限られています)


 甘く懇願する声に、孝之はふと意識を奪われ視線を向けた。
そこにはあふれんばかりの乳房を包んだスクール水着が、彼の視界を覆い尽くした。

「スク水バンザーイ!」

 彼は叫ぶと、壁に繋がれた鎖が軋みを立てるほどに、狂って腕を伸ばしていた。
その手はガラスの向こう側にある穂村のスク水に、届くことはありえないことすら気づかずに。

「本当に久々にいい検体だわ。とりあえず後1時間くらいデータを取ってから採血をお願いね」

 香月は穂村に指示を出すと、ガラスの向こうから姿を消した。
もっとも孝之にはその姿はもう目に入っていなかったであろうが。
すでに彼の視界には、スクール水着に身を包んだ穂村愛美の姿しか映っていなかった。

「さぁ、鳴海さん。私と楽しい時間を過ごしましょうね」






〜孝之スク水監禁エンド〜


・あとがき・

2004年 遙生誕日に寄せて。
何でこんなのしか書けないんだ俺。というか初のネタモノ?
時系列もキャラ設定もあったもんじゃない
生まれてきてごめんなさい_| ̄|○
つか、ぜんぜん遙でてこない誕生日で良いのか?!


あ、あんなにすぐにぶっ倒れるような麻酔は存在しませんw
あと、私はスク水には萌えませんw